城跡に咲く花〜使用人×王女〜
「……納得できません」

それまで黙っていた長身の青年がぽつりと呟いた。

漸く紡いだ言葉は彼自身はっとするほど低かった。


自らの命で、父王の悪政を償うと言う。

まだ20歳にも満たない少女。


「………姫さま、…あなたが死ぬことはない…っ」


「……グレン、…」

ユリアは瞳を見張り、やがて僅かに震える声で彼の名を呼んだ。


ヘーゼルの瞳に柔らかいブラウンの髪。

優しい面立ちの彼は、貴族家のひとり息子で、城の書庫管理を任されている使用人だった。

ユリアが書庫を訪れるうちに自然と親しくなった人物で、グレンは彼女が心をゆるせる数少ない者のひとりだ。


「あなたを置いて行けるはずなどないでしょう…!?」

いつも穏やかな彼の悲痛な叫び。

「姫さまがお残りになるというのなら、俺もここに残ります…!」
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