大嫌いな最愛の彼氏【短編】
辺りは、やっと何時も通りの朝を迎えていた。

カーテンの隙間から差す光が目に染みる。


「行くなら、早い方がいいぞ」


ふぅ…とほんの小さな溜息をついて、鎌樹は玄関の方を見つめる。


「……行ってくるよ」

「嗚呼、ちゃんとやれよ?」


『解ってるって』そう言った愛華は、玄関に向かい、並べられたミュールに足を突っ込んだ。


「ほら、彪河ん家の場所」


鎌樹から渡されたメモを見た。そこには、丁寧に地図が記されている。


「サンキュ」


小さく呟いて、軽く深呼吸をした愛華は家を出た。


「行ってきます」





地図通り歩く道のり。踵の高いミュールに、足がまだ慣れない。

そういえば、こんな格好でこのまま出て来てしまった。

愛華は元々色白で、肌が焼ける心配はないのだけれど。

こんな露出度の高い服装で、外を歩くのは、基本…好きではないのだ。


「つか……アッチぃ…」


太陽はまだ昇ったばかりなのに、じりじりと照り付けている。

皐月の空に似合わない、暑すぎる朝だった。


彪河の家は、愛華の家から歩いて、10分程度の距離だった。

黒い壁面。まだ建てたばかりなのか、真新しい外観だった。


「ここ?……だよな?」


改めて思うと、めちゃくちゃ緊張する。

落ち着け……と心に命じながら、愛華はインターホンへ手を伸ばした。


その時………。



「…愛華?」


一瞬ドキリとした。変な汗が滲む。

覚悟したとはいえ、これは余りにも突然過ぎる………。

愛華は声がした方へと、向きを変えた。


「何で愛華が、こんな所に居るわけ?」


声の主は、怪訝そうな顔で、愛華の顔を覗いた。


「いや……そ、その…」


余りにも愛華は気まずくなり、その場を全力で、走り去ろうとした。

でも、その声の主は、愛華の腕を、がっちりと掴んだのだ。


「待てよっ!」



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