大嫌いな最愛の彼氏【短編】
いきなり掛けられた言葉に、愛華は硬直してしまう。


「……上がって行って」


彪河はそう小さく呟いた。

その言葉に、素直に頷く愛華。

彪河は、愛華がここに、一体何しに来たか、何となく感じ取ったのだろう。



彪河に連れられ、家の中に入った。辺りは静まり返っている。

玄関の目の前にある階段を、早足で上りきった。

今から行く部屋としたら……きっと、彪河の部屋だろう。

きぃ…と彪河によって、扉が開かれた。

そこには、小洒落た家具達。シックな色でまとめられた部屋。

何となくここが彪河の部屋なのだと解ってしまう雰囲気の部屋だった。


「何処でもいいから、座って」


そう言われた愛華は、無難に、テーブルの前に座った。

彪河は愛華の近くに、向かい合わせに座る。


「…で、何しに来たんだよ」


胡座を掻いて、後ろのベットに凭れる彪河。

どこと無く冷たい口調。

愛華は何故だか、無性に切なくなった。


「さっき俺が、あんな事言ったのに。まだ俺に付き纏うつもり?俺が嫌いなら、こんな所になんか来んなよ」


チッと舌打ちすると、頭を無造作に掻き回した。


「…そんなんじゃねぇよ」


愛華がポツリと、微かな声で呟いた。


「………は?」

「…彪河は本当に馬鹿だね。『俺の事が嫌いなら、こんな所になんか来んなよ』?そんなの、百も承知だっての。アタシが何でここに来たか……解ってんのかよ?」


瞳を見据える。二人の視線は絡まり合い、離れようとしない。



< 18 / 26 >

この作品をシェア

pagetop