大嫌いな最愛の彼氏【短編】
「ま、いいや。で?どいつがお気に召したわけ?」


鎌樹はからかうようにニヤけながら、彪河に詰め寄った。

嫌そうな表情をしながらも、彪河は質問に答えた。


「…宮原……愛華」

「あっ、あいつー!?」


彪河の応答に、呆気に取られる鎌樹。


「いや、だって…何であいつなんだよ!?お前ら、喧嘩ばっかしなんじゃねぇのか?」


何故か鎌樹は、慌てふためいている。

そんな姿を見て、彪河は少しの苛立ちと、大きな切なさを覚えた。


「別に、喧嘩してようがしてまいが関係ねぇだろ。……好きになっちまったんだよ…。仕方ねぇじゃん……」


こんな女ったらしの俺が、あんな真っ直ぐな奴を好きになったりしたらいけないと思う。

まぁ、俺なんか相手にされねぇだろうけど………。

でもこの想い……もう止められないんだ。

自分でも、コントロールがままならない。

愛華の事を想うと、胸が痛くなる。

好き過ぎて……どうしようもなくなるんだ…。

どうせ行き場の無い想いなら、いっそ消えてしまった方が楽なのにな……。


「そっか、そうだよな…。好きになったら、そんな事関係ねぇよな……」


急にしおらしく笑う鎌樹。

突然の事で、空気が重たくなった。

お互い黙り込んでしまい、沈黙が流れる。


「でもさぁ…愛華の事、マジで好きになったんなら、他の女とちゃんと手ェ切んねぇと、ヤベェぞ?」


そんな雰囲気を蹴破って、鎌樹は真面目な顔をする。

鎌樹がいきなり『愛華』と呼び捨てにした事に、彪河は疑問と不快感を感じながら、コクリと頷いた。


「んなこと、解ってる。ちゃんとはっきりしねぇと、あいつにワリィから……。てか、あいつが俺のモノになるなら……どんな手使っても、他の女なんて全員切り捨てるよ」


『俺…それぐらいマジなんだ』そう付け足すと、彪河は真剣な眼差しを鎌樹に送った。



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