大嫌いな最愛の彼氏【短編】
「彪河……。俺、応援するよ!マジ頑張れな!」


彪河の真剣さに、鎌樹はハッキリこう伝えた。

恥ずかしいような嬉しいような気持ちで、彪河はそっと微笑んだ。


「サンキュ、鎌樹。俺、お前に話してよかったわ」


彪河と鎌樹は『へっ』と互いに笑い合ったのだった。


すると、いきなり彪河の携帯が鳴った。

《♪〜♪〜♪〜〜》

この音は電話だ。

彪河は携帯のディスプレイを見るなり、荒々しい手つきで、電話に出た。


「……何だよ?」

《彪河……》


電話の相手は、千波だった。

自分にやたらと付き纏ってくるもんだから、彪河は面白半分で千波と付き合う事にしたのだ。

でも、最近は、そんな千波の事も欝陶しくて仕方がない。

彪河の女遊びの酷さを知りながら、自分の存在順位を確かめてくるのだ。

彪河にとって、自分の中に、女達の順位なんてモノは、あるはずがない。

ましてや、今の彪河には、愛華しか眼中にない訳で……そんな事を聞いてくるだけ無駄だったのだ。


「何?用が無いなら、切るんだけど」


彪河は苛々した口調で、千波を急かす。


《ちょっと待って!……ねぇ、どうして最近会ってくれないのっ?》


千波の言葉に、彪河の苛立ちは、更に募った。

彪河は縛られるような事が一番嫌いだ。

ましてや、さほど興味のない女からそんな言葉を言われるなんて、以っての外だった。

相手に執着される程、彪河にとって、嫌な事はそうなかった。

……まぁ、今の彪河が一番嫌な事は、愛華に嫌われる事なのだろうけど(実際、今も毛嫌いされている)。

ともかく、自分にそんな事を問い質した千波に、彪河はかなりご立腹だった。


「そんな事聞くためだけに、電話してきた訳?」

《そっ…そんな事って!!酷いよ、彪河っ!あたし…“彼女”だよね!?あたしの事、“遊び”だったの?》


はぁ?ふざけんじゃねぇよ…

彪河は心の中でそう思った。


俺が、お前の事なんか本気にする訳ねぇだろ。

自惚れも程々にしろ。


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