With 〜十字架と白薔薇〜






「ただいま。」





その健一郎さんの笑顔に、
優しさがありすぎて
また壁を感じる。





「莉緒奈ちゃんが僕より帰りが早いなんて…お土産でも買ってくれば良かったよ。」





「そんな…気にしないでください。」





私は愛想笑い。





「まぁまぁ、とりあえずお腹空いたからご飯食べよう。ほらほら。」





健一郎さんは椅子に座り
私に座りなさいと手で合図する。





「あ、もうお腹いっぱいなんで…」





「そんなこと言わずに、少しおしゃべりでもしようじゃないか。」





「課題があるので、今日は失礼します。
おやすみなさい。」





「そうか…」





私は食器をシンクにいれ、
部屋へ戻る。





「あら、莉緒奈ちゃんもういいの?」





美智子さんとすれ違った。





「あ、はい。ごちそうさまでした!
おやすみなさい。」





「おや…すみ。」





二階にある自分の部屋へ
階段を登っていく私。





切なそうに背中を見る
2人の目線。





私の里親はとても優しい。





引き取られて幸せだ。




でも、その優しさが優しすぎて
大きな壁を作っている。





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