この運命を奇跡と呼ぶならば。
1.幕末
唐突に彼女はたった一人の肉親であり自身の片割れでもある最愛の兄を失った。
あの日二人で下校中に彼女をかばって──────
そして喪った。
いや。正確には————————
と、言う方が正しいかもしれない。
そして彼女は、絶望を湛えた虚ろな目で校舎の屋上に立っている。
それも、一歩踏み出せば命さえ落としてしまえるギリギリの所に。
「…ごめん、春。」
彼女の長くて黒い艶のある髪が風に靡き、そして彼女は、その一歩を自らの意思でふらりと踏み出した。
「さよなら…」
重力に逆らわず身を包むふわっとした浮遊感に体を任せて真っ直ぐと落ちていく。
彼女の大きな瞳には彼女の想いとは裏腹に青く澄み渡った空が映った。そんな空から目を背けるようにギュッと目をつぶった。
そうして彼女は自らが望んだ死に堕ちていった…はずだった。
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