この運命を奇跡と呼ぶならば。
広間を出た桜は、急ぎ足で部屋へと戻っていた。そして、角を曲がると桜は端整な顔を歪めた。
「…すみません。急いでるのでそこを退いてもらえると嬉しいんですが。」
「乙宮君。いいですよ。」
桜が出くわしたのは伊東だった。そして、伊東はいいと言ったのにも関わらず黙って廊下の真ん中に立っている。
「伊東さん、退いて頂けるのですよね。」
「えぇ。」
「なら、早く「ですが、少し質問しても宜しくて?」」
伊東がそう言うと桜はまたもや渋面になり、いつもよりも低い声で伊東に問いた。
「…何ですか。早く仰って下さい。」
桜がそう促すと、伊東は口を開いた。
「…貴方、いや貴方方。私に何か隠し事をしていらっしゃらないかしら?」
「いえ。何も。私たちは何も隠してはいません。というか、幹部である伊東さんに何を隠すというのか。」
さっぱり、と首をすくめて見せた桜に伊東は答えた。
「そう。ならいいですよ。ごめんなさいね、変なこと聞いて。」
「…どうも。」