この運命を奇跡と呼ぶならば。
桜がポツリと呟いた“にぃさん”のひと言に全員がピタッと動きを止め、永倉が噛みながらも桜の名前を呼ぶと突然立ち上がって部屋の端まで移動した。そして、みんなに背を向ける形で座った。
「桜?」
「うるさい…。こっち来ないでよ。」
「あ、桜ちゃん。照れてる?」
「うるさいって。黙ってよ。」
沖田がニヤニヤしながら尋ねるといつもより低い声で言うのだが、男たちの位置から見えるのは耳が赤く染まっている桜なので、たいした威力を発揮しなかった。
「なぁ、桜。もっかい、もっかいだけ。」
「やだ。」
「桜くん、もう一回だけ呼んでやってくれないか。これで最後だから。」
「…お父さん。近藤さんになら、そう呼んであげてもいいです。」
その様子を一人だけ温かく見守っていた近藤が朗らかに笑うと桜が素早く後ろに隠れた。
「近藤さんっ、ずるいっすよ。一人だけ。皆の妹ですよ、近藤さん一人の娘じゃないんです。」
「桜くん。桜くんは俺の一人娘だからな。」