相容れない二人の恋の行方は
「今日ってクリスマスなんだな。こっち戻ってきて街並み見て気が付いたよ」
「私は……会社にいると嫌でも意識させられましたけど」
「近々クリスマスってことは知っていたからちゃんとプレゼントは用意してあるよ。旅先で買ってきたおみやげも部屋に……」
「……え」

 思いもしなかった言葉に驚いて勢いよく振り向いて顔を上げた。

「ごめんなさい。私何も用意していなくて……」
「そんなの別にいいよ。ボクの欲しいものなんて分からないと思うし」
「はい……」

 その通りだ。考えるより前に諦めて放棄していた。いやだって、当人が行方不明だったし……
 好きな人と過ごすイベントごとなんて初めてだから、どうしたらいいのかも分からない。

「知りたい?」
「え……?」
「ボクが欲しいもの。それは、」

 一途な視線にじっと見つめられ捕えられたように動けなくなる。そのままの状態のままゆっくりと動くその唇から次の言葉が発せられる。

「真由子だよ」

 その言葉が耳に響いた後、自分のところだけ時間が止まってしまったようにすべての音が消えた。そしてしばらくして自分の耳に響いてきたのは、自分の胸の鼓動だ。ドキドキと高鳴る心臓の音。
 私は唇を軽く噛んでから口を開いたけどすぐに閉じ、俯いて、ぎゅっと握りしめている手をもう一度握り返して再び顔を上げた。でも目を泳がせるばっかりでもう一度俯いて一度深呼吸をした。
 こんな無意味な行動をさんざん繰り返し、意を決して俯いたまま大きく口を開いたけど、出たのは小さな声だった。

「私……なんかでよければ……!」

 勇気を振り絞った一言。
 恥ずかしくてどうにかなりそう。俯いたままぎゅっと目を閉じると、正面からふわりと抱きしめられた。
 爽やかでほっとする匂いは、長い付き合いだけど最近知った。包み込まれていると意識すると一気に熱が上がる。

「私なんかとか。そうなこと言うなよ」
「だって……」
「真由子は、ボクが唯一手に入れるどころか長年触れることすら叶わなかったものなのに」
「そんな……まさか」

 恥ずかしい、信じられない、でも本当なら……嬉しい。

「本当だよ」

 その言葉と同時に今度は身体がふわりと浮いた。抱き上げられて、俗にいうお姫様抱っこの状態。
 照れくさかったけど、おとなしく落ちないようにしがみついて言った。

「聞きました。前……倒れた時にもこうして……。あの時はありがとうございました」
「あまりにも軽くてびっくりしたよ。中身入ってるのかなって」
「……なんですか、それ」
「確かめてもいい?」

 どこか無邪気な視線と口をきゅっと結んで端を上げた口元。私は意味も分からず、優しげで誘うようなその雰囲気につられてこくりと頷く。
 でも新谷の部屋の扉が開いて、はじめて入る場所を目にして大きく胸が高鳴りだした。
 そして新谷が一歩二歩と部屋の中へと足を進め、パタンと音を立てて扉の閉まる音がした。

< 165 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop