相容れない二人の恋の行方は
 新谷のマンションへと戻ったのは陽がちょうど沈みかけようとする時だった。室内の電気はついていなく、人がいる気配もしない。新谷はどうやらまだ出先から戻ってきていないようだ。
 私は自室へ行き、自宅から持ってきた荷物を下ろすと自分も床に座り込んだ。大きな荷物を抱えて片道30分の道のりを電車と徒歩で来たため疲れてしまった。荷物の整理はまた明日以降にしよう。
 ベッドにごろんと横になると、部屋の外から物音が聞こえてきた。新谷も今帰ってきたらしい。夕飯の準備は出かける前に済ませてきたし、あとは用意をするだけだからまだゆっくりしててもいいよね……
 そっと目を閉じるとそのまま眠りについてしまった。

 はっと目を覚ました時、真っ暗な部屋でバッグの中でスマートフォンが鳴っていた。やがて着信は止まり、起き上がってバッグから取り出したスマートフォンに表示された時計の時間を見て驚愕した。
 あと数十分で日が変わろうとしていた。
 う、嘘!? 眠り過ぎた!? ど、どうしよう……!
 慌てて部屋を飛び出ようとすると、またスマートフォンが鳴り出した。ディスプレイに表示されるのは番号のみ。登録のない番号からの着信だ。
 普段だったら見知らぬ番号からの着信には出ないのだけど、寝過ごして気が動転していた私は着信ボタンを押して電話に出た。

「もしもし?」

 電話に出たその電話の向こうの相手と、その相手からの衝撃的な言葉に、まだ少し寝ぼけていた脳が一気に覚醒した。
 電話を切るといてもたってもいられなくなって、慌てて部屋を飛び出した。
 するとちょうど風呂上りでまだ少し髪が湿った状態でリビングに戻ろうとする新谷とばったりと鉢合わせた。

「……びっくりした。なんだよ、突然飛び出してきて」
「ご、ごめんなさい……!」

 とりあえず、動揺していた私はじっとしていられなくて玄関へ向かおうとするとすぐに呼び止められる。

「こんな時間に出かけんの? どこに?」
「え? あ……。さぁ……?」
「さぁ?」

 気が動転していた。
 「今から少し会えない?」。電話の向こうで相手はそう言っていたけど、待ち合わせの場所を決めたわけでもないし……もしかして、私に会いに来いということ?

「真由子?」

 一人で考え込んでいると新谷に名前を呼ばれてはっとする。
 たった今私に電話をかけてきたのは昼間に会った、私の自宅の隣に越してきた男性だった。
 「思い出したんだよ! そうだ、真由子だよ! あんた、いつも千智と一緒にいた……!」。

「……少し、話を聞いてもらってもいいでしょうか……」
「なに?」

 あの男性はおそらく新谷の昔の知り合いだ。彼に、報告しておくべきだろうと判断した。
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