罪線〜an imitation〜
それから小一時間くらい経過した頃だろうか。

平岡、柴田が戻らない中、シュウジと二人で過ごしていると……


「お母さん……お母さん。あの時貰った小さな手袋、今でも大事に持っているよ……」


シュウジだ。

シュウジが、聞こえるか聞こえないか、ギリギリの声量で歌っている。

お世辞にも上手いとは言い難いが、とても優しいメロディーだ。


「優しい歌だね」


俺が声を掛けると、シュウジは切なさを含んだ笑みを見せる。


「うん……お母さん、死んじゃったけどね……」


「……」


それに対して言葉が出ないのは、俺の中で今まで無かった感情が芽生えた証なのだろうか。


< 113 / 161 >

この作品をシェア

pagetop