罪線〜an imitation〜

頃合い

扉を開け、中に入って来た平岡は、俺の頬に手を当て、指で輪郭をなぞる。


「いい……顔になったね」


吐き気のするようなその行動に、顔を背けようとするが、恐怖で神経そのものがおかしくなってしまったのだろうか。身体が反応しない。

反応を見せたのは、脇の下と、身体の末端部だけ。じっとりと汗をかいている。


「大分飼い馴らされてきたようだね」


人を畜生とも思ってもいないくせに、よく言う。
快楽感を帯びた平岡の表情が、非常に腹立たしい。


「いいね。もっと堕ちてよ。堕ちていく様は、見応えがある」


……嫌だ。これ以上堕ちたくない。


「堕ちてよ」


嫌だ。


「堕ちろ」


もう……嫌だ。


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