罪線〜an imitation〜
コウタが少し力を加えれば、手に持った"それ"は、ミカの柔らかな肌にぷすりと刺さり、その内部を破壊するだろう。

俺からコウタまでの距離は、4〜5メートル。俺は忘れて全力で走る。


「間に合ってくれ!」


一瞬の事だ。そう叫ぶ事すら出来なかった。

コウタが一瞬、不適な笑みを浮かべたのだ。

俺の中に、諦めの念が流れ、同時にミカとの思い出を映し出した走馬灯も、動きを止める。


「う……うぅ……」


俺はその場に崩れる様にして座り込んだ。

……俺は何をしていたのだろうか。

結局俺は、ミカに何もしてやれなかった。

……何も……。

と、その時の事だった。


「……ケンジ。まだ何も終わっちゃいね〜よ」


俺は聞き覚えのある声に反応し、顔を上げた。



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