両親へのプレゼント
出会い

  あの話は、今から13年前の7月中旬にさかのぼる。


  夕方近くに、見た目、高校生らしき女の子が少し不安そうな顔をしてフロントのほう  へ向かってきた。


  最初、私は彼女がどこかの修学旅行生の一人かと思ったのだ。


  しかし、実際はそうではなかった。


  「フロントの責任者の方にお会いしたいのですが....」

  と、その女の子が私に言った。


  その日、宿泊の責任者である松浜課長が休みであったため、


  「私が今の責任者ですが、私でよろしければお伺いしましょうか?」
  と言って、フロントカウンターの近くにあるインフォメーションデスクへ彼女を案内  し、椅子に座ってもらった。


  私も彼女の前に座ることにした。 彼女は少し沈黙があり、


  「今度、両親をこちらのホテルへ宿泊をさせてあげたいのですが、どのようにすれば  いいのか分からなかったので、直接ここへ来ました」
  と彼女が言った。


  「あなたのご住所はどちらで、今日は何でいらっしゃたのですか?」と私が尋ねた。

  
  その理由は、彼女が未成年だと確信したことと、何か不可思議に私自身が感じたから  だった。


  「家は彦根(滋賀県)で両親と三人で住んでいます。ここまではJRと地下鉄で来ま  した」と、彼女は正直に話してくれた。


  「でも、彦根からわざわざそのために来られたのですか?」
  と私が驚いた様子で聞くと、


  「いえ、実は叔母の家が京都にあり、今日はそちらに泊まるのです。夏休み期間中   で、そのことは当然、両親も知っています」


  「ご両親のためにそのようなプレゼントをするなんて感心しますね」
  と私が言った。





                                 つづく





< 1 / 8 >

この作品をシェア

pagetop