両親へのプレゼント
両親の結婚記念日
「ありがとうございます。実は、数ヶ月前にテレビで関西のホテルの特集番組をたまたま家族で見ていて、一度でいいからこんなところに泊まってみたいねと、父が母に話していたのを聞いていたからなのです。そのホテルが、ここ京都クイーンズホテルだったのです。ただ、恥ずかしいのですが、こちらの宿泊料金のことも調べずに来てしまいました。先ほど、ここのパンフレットに書かれている料金を調べたら、3万円からとなっていたため、ほんとうのところは、諦めようかと思っています」
と、彼女が少し悲しそうに言った。
「ご宿泊の希望日は、いつなのですか?」と私が尋ねると、
「来月の16日です。その日は、両親の結婚記念日で、ちょうど20年目になるのです」と彼女は明るく言うと、
「8月16日ですか?」
と私は念のため彼女に確認をした。
彼女に確認をした理由は、8月16日とは、京都では有名な『大文字の送り火』があるため、その日はすでに数ヶ月前から満室になっていることを私は知っていたためだ。
彼女は小さく頷くと、
「部屋はとれないでしょうか?」と彼女が不安そうに言った。
「その日は、あいにく全館満室なのです」
と私は正直に満室になっている理由も彼女に説明した。
「わかりました。では、他のところをあたってみます」
と彼女は言って、席を立とうとした。
「他の市内のホテルに空き状況を確認をしますから、あと15分ほど待ってもらえますか?」
と伝えた私は、フロント事務所へ戻り、市内にある約10件のシティホテルへ電話を入れ確認をした。しかしながら、良い結果は得られなかった。
彼女にその結果を報告すると、
「いろいろと調べていただいてありがとうございました。来年はできるだけ早く予約を入れるようにします」と彼女は言うと、彼女は席を立ち、私に礼をした。
そして、彼女が玄関へ向かおうとしていた、その数十秒の間に私の頭の中では(彼女のために何とかできないのか?このホテルも他のホテルも満室で厳しい状況だ。でも、なんとかなるかもしれない!)と私が思った瞬間、
「お客様!」と私は彼女を呼び止めていた。
彼女がこちらへ振り返ると、私は彼女のほうへ歩み寄った。
「あと、5分だけ待っていただけませんか?」
と私が聞くと、彼女はまったく不審がらずに微笑み、玄関にほど近いロビーで待ってくれた。
つづく