両親へのプレゼント
大文字の送り火


   その後すぐに、お客様を部屋へ案内するためにベルボーイを呼んだ。


  「小池様、3名様をご案内して下さい」と私は言い、カードキーを彼に渡した。


   部屋番号は816号室、最上階の8階である。


   京都のホテルは高さ制限があり、東京や大阪のように高層のホテルを建てることができないのだ。


   私は梨奈の家族が宿泊する二日前に、その部屋番号を押さえることに決めていた。


   今回は3名で宿泊するため、本来ならエキストラベッド代が必要であるが、


   私はその代金をいただくつもりは、まったくなかった。


   予定通りに19時のバスに家族で大文字の送り火へ行かれ、21時30分頃に帰って来られた。


   私はその日、部屋がなんとかオーバーすることなく、満室になったことで安心をしていた。


   深夜0時過ぎのことであった。


   本日のナイトスタッフの仲田が、


   「小池様という若い女性が呼んでいますよ」と言った。


   私はすぐにフロントカウンターへ出ると、


   「どうかされましたか? こんな遅い時間に...」と私が言うと、


   「今日はありがとうございました。両親も非常に喜んでくれて、さっきまで久しぶりに家族と部屋でおしゃべりをしていました。最高の思い出になりました」
  と梨奈が言うので、


   「それは良かったですね。私もすごく嬉しいです」、


   「おやすみなさい」と彼女は言って、部屋へ戻った。


  
   その時、彼女は嬉しいはずなのに、私には彼女が少し悲しげに見えたことが気にかかっていた。


                              
                               づづく
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