奇跡の花『miraculous flower』―正直僕は強くない。けど、僕達は強い。

あれは昨日のことだった。正確にいえば、事件が起こったのが昨日で、実はその前からことの顛末は始まっていた。ゴールデンウィークの初日の土曜日に授業が終わって部活動に参加し終わった僕はルームメイトの園和(そのかず)剣(けん)翔(しょう)と映画を見にいく約束をしていたが、あいつが外せない用事がその日と次の日に入ったらしく急遽映画にいけなくってしまったうえに、その後予定していた1泊ビジネスホテルで泊まって、2日かけて東京案内してもらう予定が台無しなってしまった。
「剣翔それまじかよ。めっちゃ楽しみにしとったのに。それどないかならんの?」
「わりぃわりぃ。この埋め合わせはまた今度必ずするから。それにお前もこの間俺に一発かましやがっただろ。だから今回は一人で行ってくれ。それじゃあ俺急いで行くからじゃあな」
「おい、ちょっとまってや。僕大阪からこっち出てきたばっかで、東京のことまだなんもわからんのやけど。それに、この間のことは剣翔にとってめっちゃええ話やったやんかぁ」
「まぁ、それはそうだったな。でも、もう1年近く東京に住んでるんだし、それに大阪だってだいぶ都会だろ。まぁ、こっち来てから全然都内に遊びに行く時間がなかったからっていうのはあるかもしれんが、それも含めて観光の醍醐味だろ。だから、俺の分まで楽しんで来いよ。ちゃんとホテル代は振り込んだからさ。また明日なぁ」と言い終わると駆け足ですぐにどこかに行ってしまった。普段こういうことを全くしない奴の分全くの予想外の行動だったがゆえに、ものすごく落胆した。ともかく、せっかく苦労して外泊届も出した上に、お金も払っていたから、行かないのももったいない気がしたので、しぶしぶ東京観光一人旅を実施することとなり、出ていく前に部活で流した汗を風呂で洗い流して、すっきりした状態で前日に準備をしていた荷物と夜から雨が降るらしいので傘を持って、今年に入って買ってもらったスマートフォンで道を調べながら、一人さみしくこの島を出ることになった。映画を見た後少し東京観光して、なれない町で終電でも逃したら大変なのと雨が降り出す前にできれば帰りたいことと明日早起きして観光することも考えて早めにビジネスホテルの最寄り駅に帰っていた。しかし、帰り道なんか熱っぽいなと思いながらも、電車に乗って最寄り駅まで行ったところで記憶が途切れてしまった。
視界がぼやけていた。自分がいまどこにいるのかも何時なのかもわからなかった。ただ一つわかったことは目に前に誰かがいることだった。そしてその目の前にいるであろう者は「さようなら。おやすみなさい。また、いつか会いましょう」と声を隠すためによく使われる機会音声の声でそう言った。必死になって顔を見ようとしたが視界がぼやけて何も見ることができなかった。それでも必死に出ない声を絞り出して「お前はいったい何もんや」と問いかけたが、一切の応答はなく、唯一帰ってきた反応はその人影らしき者が少し微笑んだような顔をしていたことだけだった。そこでまた映像が途切れた。
気が付くとある部屋の一室のベッドの上で上半身裸のまま仰向けになった状態だった。腕時計を確認すると朝の10時を過ぎていた。最初はわけがわからず、自分のいる状況を理解することができなかったが、起きた時に僕以外の誰かがいる気配がなかったはずなのに、部屋の周りを見ると部屋に誰かがいるのはすぐにわかった。不幸中の幸いなのかその人物によって何かで縛られて監禁されているわけではなかったし、どこか痛めつけられた痕も視認できる範囲のどこにもなかった。そして、その人物は窓の近くで上品に本を読んでいたが、僕が起きたことに気が付くと優しく声をかけてきた。
「やぁ、おはよう。ずいぶんうなされていましたけど。よく眠れましたか?」
「え、あ、えーと、はい、ぐっすり眠れました。あの、すみませんここはどこであなたはどちら様でしょうか?」
「…ああ、これはすみません。自己紹介がまだでしたね。申し遅れました桜陽学院高等学校3年H組で、現生徒会会長兼女子剣道部部長の王生(いくるみ) 桜花(おうか)と申します。以後、お見知りおきを。後、ここはあなたがルームメイトの園和君と泊まるはずだったビジネスホテルです」と言った。その瞬間彼女を見たときに全く知らない人という感覚ではなく、どこかで見たことのある人という印象を受けた理由がわかった。そしてそれを聞く僕はすぐにベッドの上で正坐をして、
「僕は桜陽学院高等学校の1年Y組で、剣道部所属の新覇道統(しんはみちのり)と申します。先輩でしかも会長だとは知らなかったうえこのような失礼なことをしてしまい誠に申し訳ございません」
「ふふ、そんなにかしこまらなくて、もっと楽にしていいのよ。まぁ、あなたが入学してきてもう1年近く生徒会長もしていて、男女別とはいえ同じ剣道部員で部長まで務めていて、体育祭の応援団のダンスもあなたと同じ紅組で、しかもその中心で踊っていて、これまでも何度か話したこともあって、つい先日行われた今年の桜陽祭のミスコンでも2年連続で優勝したような人間だけど、私のこと知らなくても何の問題もないわよ。しいて言うなら、私が思っているほど私は話したことある相手や同じ学校の生徒に大したことのない存在だと思われていたのがちょっとショックだっただけだから」
「申し訳ありません。決して先輩は大したことのない存在ではありません。後、会話したこと覚えていてくれてありがとうございます。ただ、言い訳させていただくと寝起きで頭がボーッとしていて今自分がどんな状況に置かれているのかわからず混乱していたのといつも制服か剣道着姿でいらっしゃる姿しか拝見したことがなく、今日はじめて私服姿で眼鏡をかけていらっしゃるのを拝見したので、いつもと雰囲気ががらりと変わっていらっしゃってわからなかったのです」
「あら、それはいつも制服姿か剣道着姿でいる私は地味すぎて華がないってことかしら?それとも、私が前に出て話すことは頭に残らず、右から左に抜けるほど大した内容ではないからいつも寝てしまって顔も知らないってことかしら?ああ、所詮ミスコンで優勝できたのは素体の良さではなくて化粧と着飾った格好がよかっただけだから、今みたいなすっぴん状態や私服のセンスは大したことないし、眼鏡も似合っていないってことかな?」
「いえ、そのようなことはございません。先輩はいつも華があるのはもちろんのことですが今日は一段と綺麗でいらっしゃるので、気が動転してしまっただけなのです」
「あら、そう。なんか無理やり取り繕っている感じがしてならないのだけど、まあいいわ。あなたはやっぱり眼鏡は好きじゃないのね。まぁ、伊達眼鏡だからどうでもいいけど」
そう言い終わると会長は眼鏡を外した。
「いや、別にそういう意味で言ったのでは…」
「そんなことどうでもいいから、それよりも早く上着を着たらどうなの?いつまでたってもそんな恰好じゃまた熱を出して道で倒れますよ」
「え、はい、すぐに洗面所で着替えてきます」
「着替えるだけなら洗面所じゃなくてもここで着替えても私は全然気にしないから、何の問題もないじゃない」
「僕が色々気にするから駄目です」
「あら、男の子のくせに意外とみみっちいのね」
「そ、そんなことないですよ。理由だってちゃんとありますよ。朝起きたばかりなので、歯を磨いて、顔も洗って、身だしなみも整えたいんですよ」と言い終えて、さっさと着替えを持って洗面所に向かって、ドアを開けかけた時に、
「あ、言い忘れていたけど、あなたの介抱のために昨日ここに泊まった時に色々と備え付けられていた洗面用具は使わせてもらったから」と言われた。
「はい、全然問題ありませんよ」と返事をして洗面所にはいっていった。
「相変わらず、緊張しいで、慣れない相手だと言葉が固いわねぇ」と王生は一人呟いた。

 25分ほどかけて着替えや歯磨きなどの朝の一連の用事を済ませると部屋に戻った。すると部屋に戻るなり、王生会長は新覇を見て少し笑い出した。
「な、なにか変なところがございますか?」
「大丈夫、変なところはないけれど、ワックス使って髪をセットするのは相変わらず慣れていないのね」
「それは校則で学校にいる間は髪に整髪料つけるのは禁止ですから、普段つけられない分たまにつけるとやっぱりうまく短時間でできないものですよ」
「あら、でも女子の化粧に比べてだいぶましじゃない?」
「それはそうですね。あと、僕がすごく不器用っていうのもあります。種学校の通知表で毎回真面目に取り組んでいるのに、万年3段階評価のBでしたから」
「それは自慢になってないぞ」とそんなことを言いながらとりあえずチェックアウトの時間が迫っていたので、一端受付でチェックアウトをしに、ホテルの受付に向かった。
「会長お先にどうぞ」
「あら、レディーファーストなんて気が利くのね。ただ、親切にしていただいたところ悪いのだけれど、すでに私の部屋はチェックアウト済ませてあるから問題ないわよ」
「そうですか。さすが、会長。抜け目ないですね」と談笑しながらチェックアウトを済ませて、ホテルからでていった。このとき学校の関係者らしい方が一人もいなかったのは、幸いなことだったことに新覇は気づいていなかった。
「こんな時間だし、せっかくだから朝昼兼用でどこかでご飯食べない?」
腕時計を見ると時間はすでに午前11時になっていた。
「ええ、喜んでご一緒させていただきます」と言い、近くの喫茶店へ入っていった。
すると、中は昼前なのに結構なお客さんでにぎわっていた。僕達がはいってきたことに気づくとウィトレスさんがやってきた。
「いらっしゃいませ。お客様何名でございますか?」
「2名です。あと禁煙席でお願いします」
「かしこまりました。では、ご案内致します」と言って、禁煙のテーブル席に案内してくれた。
「注文がお決まりになりましたら、インターフォンでお知らせください」と言い終わると、ウェイトレスさんは、また別の客の方へ行ってしまった。
お互いに少しずつメニュー表を見合って、注文品を決めるとインターフォンを押してウェイトレスさんを呼んだ。
「注文お決まりになりましたらどうぞ」
すると先輩が、「今日のランチはなんですか?」と質問した。
「今日はパンとサラダとスープの付きで、メインはパスタとなっております。パスタは2種類から選べて、トマトと茄子のミートスパゲッティ―か半熟卵をのせたカルボナーラとなっております」
「じゃあ、私はミートスパゲッティ―で。あなたはどうするの?」
「じゃあ、僕はカルボナーラで」
「以上でよろしいですか?」
『はい』
「では、少々お待ちください」と言い終わるとメニュー表を片付けて、キッチンの方に向かっていった。
待っている間、新覇は昨日のことでいくつか聞きたいことがあったので、会長に訪ねてみることにした。

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