氷の魔女と人魚の宝珠
「あたしの潜水服が騎士の全身甲冑に見えてるぐらいだから、ビレオさんのしっぽも大丈夫だとは思うけど、用心に越したことはないですからね」

そしてスリサズは再びヘルメットを被った。



少し前、とある商隊に雇われた時。

スリサズはてっきり護衛の仕事だと思っていたのに、実際に任されたのは商品の鮮度管理。

魚臭い荷馬車の中に閉じこもって一定の時間置きに氷の呪文を延々と唱え続けるだけというものだった。

昼も夜も、他の人が寝ている時も、でこぼこ道で馬車が揺れまくっている時も休みなく…

だけど何より腹に据えかねたのは、商隊が山賊に襲われて護衛が戦っている時に、スリサズ一人だけお姫様扱いされて、馬車から出してさえもらえなかったことだった。

護衛班のリーダーは、スリサズにとって絶対に負けたくない炎魔法の使い手だったのに、彼に一方的に守られてしまった。

(あたしだって戦えるし、悪い奴をやっつけられるっ)

だからスリサズは商隊とは契約の延長をせず…

かといって次の仕事のあてがあるわけでもなく、いわゆる冒険者の酒場でミルクを飲んだくれていたところ、店のマスターに、他言無用の仕事があると、ビレオを紹介されたのである。



足に新しい重りをつけて、海底を目指して沈んでいく。

見下ろす町に並ぶ家々は、巨大な巻き貝にドアと窓を取りつけて作られ、幻想的な独自の景色を描き上げている。

これが住人達の目には今、地上と同じ木や石の家にしか見えていないというのは、スリサズには何とも勿体なく思えた。

(そういえばさっき、町のちびっこ達に、騎士様に間違えられたのよね)

ふと、そんなことを思い出し、何だか誇らしいような気持ちがスリサズの中に湧いてきた。

(この町は、あたしが守る!)
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