氷の魔女と人魚の宝珠
スリサズは焦る気持ちをグッと抑えてヘルメットからホースを外し、ロッコの口元に持っていって酸素を吸わせようとしたが…

バシッ!

ロッコが暴れ、それがあることに本人が気づいてさえいない尾びれによって、ホースが弾き飛ばされてしまった。

「!」

砂が舞い上がり、ホースから溢れ出る泡が掻き回されて、上も下もわからなくなる。

(落ち着けあたし!
ここでパニックになったら二人とも死ぬ!
ホースはどこ!?)

バシッ!

ロッコのひれが、今度はスリサズの腹に入り、スリサズは意識を失った。





気がつくとスリサズは筏の上で寝かされて、その顔をビレオが覗き込んでいた。

「ロッコは?」

スリサズの問いに、ビレオは静かに首を横に振って。

スリサズの目から涙がこぼれた。

こんなつもりではなかった。

スリサズはただ、本当のことをロッコに伝えただけだ。

自分の軽率さを呪った。

「これ以上の犠牲は出せん。脅迫者に従おう…」

苦々しくうめくビレオに、スリサズは黙ってうなずくしかできなかった。

もっと強い魔法使いを探して連れてこられれば、脅迫者の幻術を安全に破れるのかもしれないが、それでは脅迫者が指定した取り引きの時刻に間に合わない。

流れ者の何でも屋であるスリサズにこの仕事が回ってきたのは、ビレオが出先で脅迫状を受け取った時、たまたま同じ町に居たから。

(もともとあたしの手に負えるような事件じゃなかったんだ…)

スリサズは筏の隅に横たえられたロッコの亡骸を見つめた。

「スリサズ殿…
わしの家へ行って、金庫の中の宝珠を取ってきておくれ」

「あたしが…ですか?」

「わしの姿を妻に見られたくないのでな」

ロッコと同じことになるかもしれない。

「わかりました。
では、金庫の鍵は?」

「お前さんの魔法で壊してくれ」

「それじゃ宝珠も割れちゃうんじゃ…」

「宝珠は丈夫じゃ。
心配いらん。
派手にやってくれ」

「でも…」

「頼む。
全て終わって家に帰った時に、きれいな金庫を見たくないんじゃ」

嘘だな、と、スリサズは感じた。

ビレオはスリサズに気を遣って言っているのだ。

ここでスリサズに何か魔法使いらしい仕事をさせないと、スリサズがこの場所にきて出た結果が、ロッコを死なせたことだけになってしまうから。

スリサズは重い気持ちを抱え、三度海底に潜っていった。
< 6 / 10 >

この作品をシェア

pagetop