恋におちて
第1章

わたし、捨てられます


「悪いけど、春陽とは結婚できない」


OLのランチタイムで賑わうカフェの一角で婚約者の澤井一馬(さわい かずま)から淡々と告げられた。

まるで「明日出張だから」とでも言うように軽い口調で。


「理由は?」


聞かなくてもだいたい想像はつく。

でもきちんと聞いておきたかった。

自分の気持ちに踏ん切りつけるためにも……。


わたしの婚約者だったはずの彼の隣でしくしくとこれ見よがしに泣いてみせている女を一瞥した後、彼に視線を戻しそう問いた。


「彼女が俺との子供を妊娠したんだ。一人で育てるから産ませて欲しいって……こんな健気な彼女を見捨てるなんてできない」


健気ねぇ……。

その健気な彼女は泣きながらちらちらとわたしの様子を伺ってくる。

泣き真似するならもう少し上手くやって欲しいものだ。





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