301号室、302号室、303号室





涙を流す女の横顔や、


初めて飲んだ焼酎の味や、


二軒目に立ち寄った店の静けさ


そういったものが、全部ではないけれど、断片的に脳内に浮かび上がる。

僕が昨夜、この女にあんなことが言えたのは、僕自身が自分本意で、すぐ人のせいにしたがる甘ったれた人間だからだ。

自分のことは棚に上げ、現状を嘆き、ただ僕とレミを傷つける全ての人間が憎たらしいと思っていた。

消えればいいと思っていた。

僕らを包む憂鬱が全部消えてしまえば、目を見て好きだと言って、彼女をきつく抱き締めることができる。

彼女は僕のものになる。


そう、思い込んでいた。



けど、この人と出会って、何かが変わっていくのを感じた。




「私も、分かってたよ?この関係が一晩限りのものだって。でも、あんなこと言われたの初めてだったから、昨日の夜、湊に愛されてる時間を信じたいと思ったの。」



この女にとってこれは、よくあることだった。
きっと、毎晩違う男と寝てしまえるような人だから。

だけどそんな彼女だって立派な人間であり、愛されたいと望むことだってある。

そんな女の弱さが、時々、自分自身と重なるんだ。



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