301号室、302号室、303号室
僕らはしばらく黙ったまま、お互いの顔を観察するように見つめあっていた。
「ちょっといい?」
不意に彼女が、僕の眼鏡に手を伸ばす。
なんだろう。
素直にじっとしていると、急に視界がぼやけた。
眼鏡は今、彼女の手の中にあるのだろう。
「やっぱり、こっちのほうが格好いい」
そう口にした彼女が今、どんな顔をしているのかは分からないけど、とりあえず自分の顔はよく分かる。
・・・熱くて、仕方ないから。
ちゅっ
軽く唇が触れて、一瞬訪れた柔らかな感触。
その瞬間に、止まっていた時計の針が、少し、動いた気がした。
もう一度、今度はゆっくり、彼女の舌が僕を味わうように、絡み付く。
耳に入るのは、テレビから流れてくるクリスマスソング。
今日はクリスマスイブ。
僕らには無縁のイベントだ。