301号室、302号室、303号室



僕らはしばらく黙ったまま、お互いの顔を観察するように見つめあっていた。



「ちょっといい?」



不意に彼女が、僕の眼鏡に手を伸ばす。
なんだろう。
素直にじっとしていると、急に視界がぼやけた。
眼鏡は今、彼女の手の中にあるのだろう。



「やっぱり、こっちのほうが格好いい」



そう口にした彼女が今、どんな顔をしているのかは分からないけど、とりあえず自分の顔はよく分かる。

・・・熱くて、仕方ないから。



ちゅっ



軽く唇が触れて、一瞬訪れた柔らかな感触。



その瞬間に、止まっていた時計の針が、少し、動いた気がした。



もう一度、今度はゆっくり、彼女の舌が僕を味わうように、絡み付く。


耳に入るのは、テレビから流れてくるクリスマスソング。




今日はクリスマスイブ。

僕らには無縁のイベントだ。




< 19 / 61 >

この作品をシェア

pagetop