301号室、302号室、303号室
「新聞の勧誘なら結構です。うち、間に合ってるんで、」
とりあえずカマをかけて、様子を伺ってみることにした。
さあ、どう出る?
覗き穴からじっとその姿を覗いていると、男は被っていたキャップのつばに手をかけた。
・・・・あ、やっぱり
おずおずと帽子を取ったその姿を確認したところで、納得する。
髪、ちょっと伸びてるな・・・
「やっぱ、誤魔化されへんか」
そう、恥ずかしそうに後頭部を掻く陸人の様子は私からはちゃんと見えているけれど、彼はまだ、私の姿を確認していない。
けど、
「開けて」
そう、覗き穴を見た彼と、有り得ないけど一瞬目が合ったような気がして、心臓が跳ねる。
余計、心臓に悪いことが起きてしまった。
「いきなり来られても困るし・・・何しにきたん?」
わざと冷たく言うと、ゴメン、と寂しそうに陸人は呟く。
久しぶりの陸人は、やっぱり相変わらず。
素直で単純で、馬鹿で。
こっちの都合なんか、これっぽっちも考えてない。
「急に来て、やっぱ迷惑か。サプライズで驚かそ思うててんけど、もしあれなら、日ぃ改めるわ・・・ほんま、ごめんな・・・」
アホや・・・・
アホすぎて、話にならん。
人がちょっと冷たくしただけやのに・・・
どんだけ、単純やねん。
「陸人のあほ。ばか。単細胞。」
「え?なんで?」
「そういう意味・・ちゃうし・・・・それくらい、分かれ」
陸人だって分かったとき、本当はすごく嬉しかった。
それはもう、ただでさえ腫れぼったい目からまた更に涙が溢れるくらい。
「涼子?泣いてんの?」
「・・・うっさい、いちいち訊くな」
「ご、めん、涼子・・・入るで・・・?」
直後、ドアが、開いた。