301号室、302号室、303号室
外の冷気が、一瞬、涙で濡れた顔にかかる。
こんな不細工な姿、見られたくなくて、顔を見られないように俯くと、彼がお気に入りでよく履いているスニーカーが見えた。
もう、すぐそこにいる。
隔たれた壁が取り払われ、手を伸ばせばもう、触れられる位置に彼がいることが、未だに信じられない。
「顔、見して?」
そう言って伸ばされた陸人の手が、私の頬に触れる。
なんで、寒い場所にいたくせに、こうも手が暖かいのか。
陸人の親指は、頬を伝う涙を優しく拭った。
「やだ」
「なんで?」
「だって、ぜったい今、不細工な顔してる」
「ええから、」
「陸人、絶対笑うもん」
「笑わへんから、見して」
陸人が、真剣だ。
どうせ笑うくせに。
私は彼の魔法にかかったみたいだ。
顔が、無意識のうちに上を向いてしまう。
「ふっ、」
「やっぱ、笑った」
「・・・やっと、会えた」
両手で私の顔を包み込み、柔らかく微笑みながら見下ろしてくる。
やっと会えたって・・・連絡のひとつもしてくれなかったくせに・・・
でも、許してしまう。
ずるい・・・。
「むくれて、どうしたん?」
「・・・連絡くらい、してよ」
「ごめん・・・けど、びっくりした?」
「心臓、止まると思ったわ・・・ばか」
「ははっ・・・よかった」
陸人は力が抜けたように、ふっ、と私の肩に頭を乗せた。
私は彼の背中に手を回して、ずっと寂しかった、と言って泣いた。
初めて、本音を言えた気がする。
ようやく、甘えることができた。