301号室、302号室、303号室




テーブルの上に、コンビニで購入したと思われるショートケーキをはじめ、お菓子の類いや飲み物の類いを並べていく。

ああ、なんか今、すごいクリスマスっぽいかも。



「飲も」


「・・・うん」


「どうしたん?」


「・・・・ああ、あかんわ」


「何?」



隣に座る陸人が、急に顔を両手で覆ってうつ向いた。

緊張する・・・

そう呟いた言葉に、疑問符が浮かぶ。
今さら、緊張もなにも。



「飲む、前に・・・目つぶって」


「え!?な、なんで」


「ええから早く、一瞬で済むから・・・」



うわっ・・うわっ・・・

なんでうち、陸人相手にこんなドキドキしてんの・・・?
ありえへん・・・・

一瞬って、何?
ばくばくなる胸を押さえて目を閉じる。

と、

左手になにかが触れる感触が。



「目、開けて」



と陸人が口にするまでの体感時間は、全然一瞬なんかじゃなくて。

やっと、目を開けられる。

ぱっと目を開けたけれど、何か変化はあったのか。
少しの間、私は気づけなかった。

でもすぐ、左手の指に違和感があることに気付いた。



「・・・・これって」



薬指に、きらりと光るものが・・・。
これってもしかして、エンゲージリングってやつ?

予想外の出来事に、息をするのも忘れてしまった。



「うん、俺と、結婚、してください」



私の目を見つめて、指輪を手でなぞるように、指を握る。



「うん」



何も考えず、ぽろっと即答してしまった。

プロポーズした陸人本人でさえ、そのあまりの反応の早さに唖然としている。


正直まだ、彼が言った言葉の意味を、はっきりと理解しきれずにいる。
でも、今はそれより、喜びという気持ちが勝っていた。



「よろしく、お願いします」


「・・・良かった、ほんまに、良かった!」


「はいはい、じゃあ今度こそ、飲も」


「うん、乾杯」


「乾杯!」



缶ビールが重なり合う小さい音がして、私たちの特別な夜が始まる。



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