301号室、302号室、303号室




そうだ。

何か話題を考えよう。
話をして、仲良くなってしまえば、この沈黙も苦にならないかも。

なにもない天井を見上げ、視線をさ迷わせる。


ううん・・・

三木くん・・・三木くんといえば・・・



「あ、あのさ、」


「・・・何ですか?」


「三木くんって、恵美ちゃんと付き合ってるんでしょ?」



恵美ちゃんというのは私たちと同じサークルの長澤まさみ似のかわい子ちゃんのことである。
彼女が前回か前々回の飲み会の翌日に、三木くんと寝た、という話を意気揚々としていたのを思い出したのだ。
恵美ちゃんが三木くん狙いなのは勿論知っていたので、美男美女カップルだ、とひそかに思った記憶がある。



「べつに、付き合ってないです」



が、彼の口から出た言葉は予想外のものだった。
視線をゲームの液晶画面に注いだままの、至って真剣な表情。
その口調からも、それが嘘ではないというのが伺える。



「・・・でも、こないだの飲み会終わりに・・したんでしょ?」


「・・・・あぁ、そのことですか」



彼は慣れた手つきでゲームの電源をオフると、私の方を見た。
急に視線がぶつかったものだから、心臓が高鳴る。
ビージーエムがなくなり、静かになってしまったことで、余計に鼓動が早くなっていくのが分かった。



「しましたよ、彼女の部屋で」



だからなんだと言わんばかりのすまし顔で、三木くんは答えた。



「でも、付き合ってるとかではないです」



淡々と、彼は続ける。
付き合ってないのに、できる人なんだ。
チャラチャラしてそうには見えないのに・・・なんか意外。

でも、人には誰だって、意外な一面くらいあるものだ。
それに、恵美ちゃんとしたのには、何か事情があるから、かもしれないし。
まあ、彼女のほうは付き合ってる気満々みたいだったけど。

三木くんって、恋愛に関しても、ほんとドライ。
あまりにモテすぎると、冷めてしまうものなのかな。



「そんな意外そうな顔、しないでください」



簡単に、私の心を見透かしてしまう。
私ってそんなに、分かりやすいだろうか。
顔に出るタイプって、よく言われるけど。



< 45 / 61 >

この作品をシェア

pagetop