301号室、302号室、303号室
「そうだよね・・・ごめんね、変な質問して」
そう言いかけた、そのときだった。
「中村さんは、特別です、から」
そう、確かに、聞こえた。
耳に、入った。
いつものクールな口調とは違う、不器用な声で。
また、顔、反らされた。
けど、なんとなく分かってきた。
彼は、照れたときや、何かを誤魔化すとき、目を反らす。
そっぽを向いた彼の肩を掴む。
さっき、散々ドキドキさせられた、お返しだ。
「ねえ三木くん、特別って、どういう意味?」
「なんでもないです、一刻も早く忘れてください。」
「ねえ、気になるんだけど」
「気にしなくていいですから。」
「なんで教えてくれないの?」
「・・・だから、触るのとかも・・迷惑なんで・・・」
自分だってさっき、私の顔とか、平然と触ってたくせに。
でも、さっきまで上からだった三木くんが、徐々に余裕を無くしていく様子が面白くて、私は更に彼に迫る。
だって、嫌われてないなら、それは、喜ぶべきことだと思うから。
「こっち向いてよー、三木くーん!」
「嫌です。死んでも絶対向きません。」
しかし、彼は私を上回る頑固者だ。
掴んだ肩を引っ張っても、少しも動かない。
そんなに、嫌なのか・・・
私は手を離し、もう、何かを言うのもやめた。
黙ってお皿に残ったリゾットを食べ始める。
・・・もう、いいや、疲れたし。
「やっと、諦めてくれましたか」
「うん・・・特別だって言われて、私ばっかり舞い上がってたみたいだし・・・しつこくして、ごめんね」
内心はまだ、もやもやしている。
ようやく少し、彼のことが分かり始めたと思ったのに。
また振り出しに戻った感じだ。
「ずるいよ、三木くんは。急に距離詰めたかと思えばまたはぐらかして・・・そんなの、気にならないわけないって。」
「・・・・・ズルいのは、どっち?」
「え?」