301号室、302号室、303号室
その、直後。
「んっ、んんっ」
咳払いをする三木くんの声が、聞こえた。
息が詰まるほど近距離に感じていた彼の気配はもうない。
目を開けると、口元に拳を当てて、私から目を反らす彼の姿があった。
「どう、したの・・・?」
「いや・・・今さら、罪悪感が・・・」
「罪悪感?」
「昨日、キスしたときもそうでしたけど、中村さんがあまりに純粋無垢な顔で目を閉じてるから・・・自分が、悪いことをしてる気分になってくるんです」
「・・・・悪いことなら、もうしてるでしょ?お互い」
「それも、そうですね」
「・・・・んっ!」
突然、なんの前触れもなく、三木くんの唇が、私の口を塞いだ。
何が起きたのか分からないまま、目をパチパチさせることしかできない。
ちゅ、という音で唇は離れ、次の瞬間には、彼はもう、なに食わぬ顔で前を向いている。
あっという間の出来事すぎて、まだ頭がついていかない。
その横顔に、つい数秒前に起きた出来事の余韻など、微塵もない。
私の唇は、じわじわ熱くなってきているというのに。
「どうしたんですか?顔、赤いですよ?」
そうやって、すぐ馬鹿なフリをする。
ムカつく。
全部分かってるくせに。
でも、そんな彼にまんまと乗せられてしまう。
私は、単純な人間だ。
「・・・・そろそろ、その、嫌みったらしい敬語、やめてくれない?」
「嫌です。中村さんの反応が面白いんで。」
ちゅっ
「・・・・・っ!」
また。
不意打ちで唇を奪われた。
さっきまで、罪悪感がどうとか、言ってたくせに・・・。
三木くんは満足そうに頬杖をついて、私のことを見ている。
「さっきから、何?」
「・・・ん?」
「キスするの、躊躇ってたじゃん、三木くん」
「ああ、はい。でも、自分の罪を認めたら、我慢するのが馬鹿馬鹿しく思えたんです。それに、我慢は体に良くないですから。」
そう、いつもの無表情で言って、今度は首筋にキスをする。
私たちは、これから、一体どうなるんだろう。
なんて、冷静に考える余裕も、今はない。