301号室、302号室、303号室
「中村さん、俺のこと、好きですか?」
耳元で聞こえた三木くんの声に、胸がきゅうっと締め付けられる。
また、そんな声を出して、私の心を揺さぶって・・・
「そんなふうにされたら、好きになるって」
私も、何だかんだで普通の女子だったみたいだ。
彼の思惑通り、落とされた。
「俺も、好きです。」
ドクン・・・
そんな分かりきってること、今さら言うなんて、やっぱり、三木くんはずるいよ・・・。
分かりきってるはずなのに、改めて、ストレートに言われると、なんか、夢みたいだ・・・。
「今から、どこか行きませんか?」
「今から、って・・・?」
「今日、クリスマスイブですよ?」
そっか、クリスマスイブに私は、ほぼ初めて喋った彼と、こんなことになったのか。
そう考えると、何から何まで、おかしな話だ。
時計を見ると、時刻は14時を回っていた。
あと三時間もすれば、亮太は帰ってきてしまう。
「どこか、できるだけ遠くに行きたいな」
「じゃあ、そろそろ準備、しますか」
両手に挟んだお皿の中のリゾットは、すっかり冷めてしまったようだ。
半ば、忘れかけていた。
強く、フチを握っていたせいで、手のひらには汗が滲んでいる。
食べるの遅いとからかわれながら、なんとか完食し、最近奮発して買ったワンピースに着替えた。
クリスマスにもしデートができるなら、と思って念のため購入しておいたものだ。
デートの相手は、まあ、予想外の人になってしまったわけだけど。
彼に腕を掴まれて、六畳の狭いアパートから、クリスマスの街へと飛び出す。
私たちは、まだ、今しか見えていない。
まるで、今から銀行を襲撃しに行く銀行強盗のような、不安と期待と、欲望に満ちている。
私たちは、同じ罪を犯した、共犯者だ。
今なら、彼となら、誰も私たちを見つけられないくらい遠くへ、行ける気がした。
今日は、最低で最高の、クリスマスイブになりそうだ。