だいすきのすき
「そんな軽いもんじゃない」

「あっそ。キミと小西さんの間に何があったとか、そんなのは聞くつもりサラサラないけど。どっちにしろ後悔してるんだろ?」

「……そうだよ。話しかけようとしても、避けられてるから謝れもしない」


情けないけど、今の俺は雨花に話しかけることすら出来ないくらい拒まれている。

それでも諦められない。
自分の口でちゃんと雨花に謝りたかった。


「まぁ、キミの自業自得なんだろう。小西さんが理由もなく人を避けるとは思えない」

「……わかってるよ、んなこと。それでもちゃんと謝りたいんだよ」

「そう。なら、僕が言う文庫本を用意して、明日の昼休み図書室に来て」

「……は? なんで文庫本? 仕事の手伝いでもさせんのかよ」

「あいにく、キミに手伝って貰わなくても仕事はちゃんとこなしてるから。とにかく明日までに用意すること!」


急激な話の移り変わりに、正直展開についていけてない。

呆然としてる俺に構わず。
制服のポケットから取り出した手帳にサラサラと何かを書き付け、素早く切り取って手渡してきた。

殴り書きにしては綺麗な字で書かれたそれは、どうやら本のタイトルのようだった。


「それ、次に小西さんが借りる予定の文庫本。とにかく昼休みになったらすぐに来るんだよ」


くるりと踵を返したそいつは、ひらひらと後ろ手に振りながらその場から去っていく。


正面から行っても雨花には聞き入れて貰えそうもない。

だったら一縷の望みを賭けて、アイツの策に乗るしかない。


渡されたメモを握り締めて、俺は急ぎ足で本屋へと向かった。
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