だいすきのすき

次の日の放課後。

昼休みに準備を整えた文庫本を、図書委員に託し、人気がほぼ皆無の図書室の隅に身を潜めた。


図書室の中に居るのは先回りして待ち伏せてる俺と、何も知らずに図書委員と連れ立ってやってきた雨花の三人だけ。


「はい。これ、取り置きしといたヤツ」


貸し出しカウンターからアイツが取り出したのは、他でもない俺が昼休みに準備を整えた文庫本だった。


「ありがと。続きが気になってたの」


笑顔で受け取った雨花が手続きをしようとしたところで、図書委員が貸し出し時に使う証明用のカードを忘れたという。

「悪いけど待っててくれるかな。急いで教室まで取りに行ってくる」

もちろんこれは芝居。

こうして俺と雨花を二人きりにしてくれるってワケだ。

「ゆっくりで大丈夫だよ。読みながら待たせてもらうから」


こうして誰も居なくなった図書室で、手近にあった椅子に腰をおろした雨花がページをめくり始める。


「……あれ、珍しいな」


物語の冒頭の文字には、赤いペンで円がされていた。
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