だいすきのすき
意を決して近づけば、文庫本を握っていた手にいくつも涙が落ちていた。


「なんで……今更、好きなんて言うの?」

「やっと気付いたから。自分から別れよって言った癖に、雨花に避けられるのが辛いって」


俯いて涙を零す雨花の前に回り込んで、その前に跪いて顔を覗き込んだ。


久しぶりに重なった視線は涙で溢れていて、自分が泣かせたんだと思ったら……めちゃくちゃ胸が痛い。 


「そんなの……罪悪感だよ、きっと」

「最初はそう思った。でも、雨花が他の奴と楽しそうに笑ってるの見て、相手が自分じゃないのが悔しかった」


他の奴に笑いかける姿を見てやっと自覚した。
俺は雨花が好きで、雨花にも好きで居て欲しいんだって……。


「……ずるいよ、そんなの……」

「ごめん……」

「わたしなんて……一緒に居た時からずっと諦めなきゃって思ってたのに」


雨花の唇が小さく震える。
それは俺が雨花を利用してるってわかったから……。
俺と一緒に居ながら、いつか来る別れをずっと考えて居たんだと思う。

ずっと堪えていた悲しいのとか辛いのとかを吐き出すみたいに、雨花の涙は止めどなく落ちていく。


諦めを心に決めながら、俺に笑いかけていた雨花の本心がそこに現れてるみたいだった。
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