だいすきのすき
雨花に何かあったのかを尋ねると、何やら歯切れの悪い声がして、


「あの……いきなりなんだけど……今から憂梧くんのお家に行っても良い?」

「……えっ?!」


ぼんやり雨花の声を聞いていた頭か、この一言で一気に覚醒した。


だって……いきなり家に来るって……。
しかも仮にも俺たちは付き合ってる彼氏と彼女同士なワケで……。
それが誰も居ない家に来るなんて、脱童貞したい俺としては願ったり叶ったりだ。


思いも寄らない申し出に、ショーケースの前で狼狽える俺は、


「お母さんがご飯を作り過ぎちゃって……。是非お裾分けしたいって言うの。ごめんね、強引で」


申し訳なさそうに話す雨花の声と、その後ろから聞こえる雨花の家族のザワザワした声で我に返る。


……ちょっとでも邪推して期待した俺のバカ。
どんだけ童貞こじらせてんだ……って、汰一あたりに笑われそうだ。


内心少しばかりガッカリしたのを隠し、いつも通りの声で雨花にお礼を告げる。


大方雨花が母親に俺の家のことを話して、気を遣ってくれたんだろう。


そんな律儀で生真面目な優しさが雨花らしい……。
……だからこそ、そんな雨花を練習台としか見ていない自分に、罪悪感がむくむくと膨れていく。


それにまた蓋をして、俺は手ぶらでコンビニを出ると、いつもの別れ道まで足早に向かった。
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