だいすきのすき
いつもの別れ道まで引き返すと、既にそこには雨花の姿があった。


その手には大きな紙袋が提げられていて、駆け寄って来た俺に気付くと、


「突然ごめんね……。お母さんがどうしてもって聞かなくて」


申し訳なさそうに眉を下げて、持っていた紙袋を差し出してきた。


その大きさからして、とても一食分しか入っていないとは思えない。


……多分、多めに作って持たせてくれたんだろうな。

一度しか会ったことはないけど、雨花の母親ならそうするような気がした。


そんな所は雨花と似ている気がする。

優しくてお人好し……。

一度しか会ったことのない俺に、こんなことまでしてくれることに、嬉しいような申し訳ないような複雑な気持ちになった。


……本当に雨花が好きで付き合ってたら、きっと素直に喜べたんだろな。

また浮かびそうになった罪悪感に慌てて蓋をした。


差し出された紙袋を受け取りながら、


「なぁ……家で一緒に食べよ」

「えっ?」

「その方が楽しいし」


こう言って空いた方の手で雨花の手を握れば、雨花が嬉しそうに笑って頷いた。


雨花が嬉しそうに笑ってくれると、俺のこと好きなんだって……自惚れのように感じる自分が居る。


心の距離が縮まって、体の距離も縮まって……合意の上で脱童貞する。


そうすれば雨花を傷つけずに別れられるから。


そんなことを考えながら、雨花の手を引く自分を必死に肯定するのだった。
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