ミュゲ
その人が言ってくれたから頑張れる、と笑ったミジュが眩しすぎて、悔しくてしかたなかった。
大好きだった妹。
何をするにも可愛らしくて、誰にでも優しく愛嬌があった。
そんな妹が、分かち合える人と出会えて、離れ離れにさせてしまったことが悔やまれてしかたなかった。
「その方の名前は覚えているか?」
「ふふ、それが教えてもらえなかったの。ただ5月1日に花をくださったことしか。多分あの格好からして、市民の男の子だったかしら。数日しか会えなかったけれど、元気にしてると嬉しいわ。」
5月1日。
それはミジュが離宮に入れられた前日。
ロータスは思い出した。
離宮に監禁される前、……ミジュの能力が暴走して軟禁された一週間。
何度かミュゲが脱走したと報告があったのを。
思い出した瞬間、頭が打たれたような衝撃がした。
きっと、この子はその男の子のことを……。
「そうか。そろそろ広間に私は戻らなければならない。ミュゲ、取り敢えず今は自分の部屋へ戻り療養に励むこと。詳しくはそれから話し合おう。何かあったら私か、カッシュに言うといい。
前みたく、侍女はカッシュだ。では、またな。」
これ以上、この場にいることができなかったロータスは早口でまくし立てた後、さっさと部屋から出て行った。
「あっ! お兄さま……待って!」
後ろからミュゲの声が聞こえたが、無視することしかできない。
泣くだなんて、
涙なんて……
ミジュの前では見せてはならないと、目元を拭い、気持ちを切り替えて騒ぎが収まっていない広間へと足を進めた。