ミュゲ
溢れんばかりの涙を零すカッシュ。
本当に、色んなことがあったのだろう。
だがそれを私は一切知らされていない。
「……失礼ながら、陛下が呼んでいますのでお先を。」
扉の後ろに控えていたお付の兵が先を促す。
「ええ、少し待って頂けるかしら。」
グルリと、この冷たい部屋を見渡す。
私は今まで12年間、この場所で過ごしてきた。
離宮のさらに冷たい地下といえど、10畳はある広い一部屋。
奥にある階段を上れば、塀で囲まれているものの、多少は外にも出られるし、必要な物は何不自由なく揃えてもらえた。
ただ、人との関わりが閉ざされていただけ。
それに、白い花もとても綺麗に広がっていた。
とても、長かった12年間。
「……ありがとうございました。」
私は18歳の誕生日を迎えた今日、ここの離宮にお別れを告げた。
ここを離れることの嬉しさと不安さが絡み合いながら、促されるまま馬車に乗せられ、そびえ立つ懐かしい宮殿へと到着した。