ミュゲ
人払いを済ませたこの部屋には、ミュゲとロータスの二人きり。
「ミュゲ、遅くなって本当にすまなかった……。」
皇帝の肩書きを降ろしたロータス。
その表情は妹の身を気づかうただの兄の姿。
「お兄さま……。私は不自由なく離宮で住まわせてもらいました。本当ならばこうして宮殿への生活に戻ることなどできなかったのです。お兄さまには感謝しきれないですわ。」
頭を下げる兄にミュゲは優しく言った。
自分でもわかっているから……。
本来、私はもっと蔑まれ、隔離され、二度と表立ってはいけない、国民からも親からも捨てられた子なのだと。
それを救ってくれたのはロータスだ。
重たくなったミュゲの表情をチラッと見たロータスだが、何も追求はしなかった。
「……さっきも皆に言った披露宴のことだが、」
「わかってます、お兄さま。
私は、……ピアニー共和国のアルストロメリア皇太子さまとご婚約なさるのでしょう? 三日後の披露宴の表向きは“病から回復した王女のお披露目”でしょうけれど、
実際は、ピアニー共和国皇太子殿下と、私の顔合わせですね?」
十八歳の誕生日だからと言って、私はゆっくりする暇はない。
フッと寂しげに笑ったミジュの顔は、憎しみや恨みなどを一切感じない、優しい眼差し。
その暖かさが、ロータスは不思議でならなかった。
「ミュゲ……なぜだ? 国民はお前を恐れて離宮へと追い込んだ。その国民のためにどうして、自分を犠牲にするこどできる?」
「昔ね、……離宮に入ることが決まったときに言ってくれた人がいるの。一輪の白い花をくださった人が。」