クール上司と偽装レンアイ!?
「俺から詳しい事情まで話す事は出来ないけど、当時神崎は信頼していた人間に裏切られたんだ。かなりの挫折を味わったはずだ」

「裏切られた?……誰にですか?」

藤原さんはその問いに答える気は無いようだった。

「さっきも言ったけど俺の口からは言いたくない。中途半端な事をして悪いと思うけど、でも広瀬さんがかなり思い詰めた顔をしてるからあいつが与えた誤解を解く手助けをしたいと思ったんだ」

「誤解?」

「そう。神崎が厳しい言い方をするのは広瀬さんの為を思ってるからだと思う。あいつはどうでもいい人間には何の関心も示さないから。初めて二人のやり取りを見た時直ぐに分かったよ。神崎は広瀬さんを気に入ってるって」

「……そうなんですか?」

「ああ。それは自信を持っていいよ」

……本当なのかな?

葵は私の事を想ってくれてるの?

表向きの厳しさに傷付いて心を閉ざしてしまったけど、もっと深く考えれば葵の気持が私にも分かったのかな。

「少しは元気出た?」

「はい」

「そう、それなら良かった」

藤原さんは優しく私を見つめながら言い、それから腕時計に目を遣った。

「そろそろかな」

「あ、もしかして予定が有ったんですか?」

よく見れば藤原さんは料理に全く手をつけていない。

本当は先約が有ったのに、落ち込んだ私と遭遇したから付き合ってくれたのかな?

迷惑をかけてしまったのかと心配になっていると、藤原さんの後ろの障子が突然大きく開いた。
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