クール上司と偽装レンアイ!?
行き交う車のクラクション。遠くから聞こえる盛り上がった笑い声。

でもそれらは酷く遠いところから聞こえて来るようだった。

頭も足元もフワフワしている。

神崎さんに掴まれた腕だけが熱い。

人々の間を引っ張られながらすり抜けて行く。

どこに行くかも分からないし、どうしてこんな事になってるのかも分からないけど、でもなぜか逆らう気にはならなかった。



しばらく歩くとようやく掴まれていた腕が解放された。

同時に頭上から聞こえて来る声。

「広瀬さん」

「は、はい」

顔を上げると神崎さんの黒い瞳と視線が重なった。

ドキリと心臓が跳ねて、身体が熱くなる。

私の熱とは反対に神崎さんは冷やかに言った。

「少しは要領良く立ち回れば? 嫌なら適当な理由をつけて断れよ」

「え……」

まさかいきなり怒られるとは思ってなかった。

驚いていると、神崎さんは苛立った様に目を細めた。

「1時間以上も酔っ払った別府課長の相手を押し付けられて、明らかに嫌そうなのに2次会も断れないし見てるこっちがいらいらしてくる」

い、いらいらって……私、そんな不快感を与えてしまったの?

でも押し付けられたってどう言う事?

「上手い具合に課長の隣の席にされただろ? 結構あからさまだったけど本当に気付かなかったわけ?」

……全然気付かなかった。


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