クール上司と偽装レンアイ!?
「……どうしたの?」

「検品しに来た」

葵はそう言うと私の隣に座り、作業を始める。

「平気なの? 今忙しいんでしょ?」

「検品だって購買の大事な仕事だろ?」

そうだけど……でも葵の仕事じゃない気がする。

手間がかかるけど誰にでも出来る作業だから。

「別府課長、探してるかもしれないよ?」

「最近彩とちゃんと話してないから。こうしていれば堂々と側にいられる」

葵は仕事中には見せない笑みを見せて言う。

その顔を見ていたら切なさが込み上げて来てしまい、私は作業をしている振りをして俯いた。

「あとちょっとで一緒に働けなくなっちゃうね」

今の購買部からは早く去りたいけど、葵と離れるのは寂しくて仕方ない。

「異動したって同じ会社だろ?」

「そうだけど……でもこんな風に隣に座って一緒の作業は出来ないよ」

「……」

葵は何も答えない。答えようが無いんだと思う。

せっかく葵が来てくれたのに、私のせいで暗い雰囲気になってしまった。

後悔したけれど上手くフォローが出来ない。

そんな中、葵が意識したような明るい声で言った。


「表彰式明後日だな。旅行券が出たらどこかに行こうか」

葵は私の気持を盛り上げようとしてくれてるんだって分かった。

表彰式も副賞の旅行券も葵は初めから楽しみにしてなかったし、むしろ面倒そうだったから。

これは優しさだ。

それなのに……私は素直に喜べない。

「旅行券は私はもらえないよ」

そう言うと、葵は驚いた顔をして作業の手を止めた。
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