好きなだけじゃ、だめ。
青峰side





久しぶりに萌から呼び出されたから何の話かと少し胸を弾ませて屋上に行くと、空を見つめて目を細める彼女がいた。


元々顔立ちの整っている萌だけど、俺は萌の何かを見つめたり考えている時の表情が好きだった。


俺も少しの間そんな彼女を見つめていたが、流石にずっと見ているわけにはいかず声をかけた。


俺がそこにいたことに気づいてなかったはずなのに、突然現れた俺に特に驚いた様子もなく「あぁ、秋人」と小さく呟く萌。


「なに、」


『クソ峰さ、登校時間固定してくれない?』


...は?


理由は俺と何故だか登校時間が毎回かぶってしまいすぐに校門をくぐれない、ということだった。

そりゃあかぶるだろうよ。




合わせてるんだから。




今彼女には、ストーカーが、いる。

仕事柄そういうことに慣れている萌はあまり気にしていなさそうだけど、今回のはなんかやばい気がするんだよね。

こんな強気な萌だって、女の子、なんだ。

本気で男に襲われたら確実に危ない。

彼女は頭がいいから、俺が学校付近にいるのを見ると角の路地裏で時間を潰す。

ストーカーがいつも待ち構えているのはその先の小道で、一見逆に危なそうに見えるけれど、萌が路地裏に10分以上いると何故だかどこかに行ってしまう。

そいつの意図がよく分からないが、萌が無事ならいい。

本当は俺が送り迎えしたい。

本当はもっと学校で話したいし、変な男が寄り付かないようにずっと傍にいたい。

だけど俺たちは“芸能人”だから。

無理、なんだ。











俺の仕事の時間が迫ってきて話を切り上げる。

最後少しだけ秋人、と呼んでくれて嬉しかった。

俺は萌に名前を呼ばれるのが一番嬉しい。

何人のファンの子に名前を呼ばれるよりも、たった一人萌に名前を呼んでもらえるだけで俺は幸せ。


そんなことを思いながら本日二度目の校門をくぐった。

道路脇には迎えの車が待っている。










ここまでの話で分かるように、俺は萌のことが好き。

ずっと、ずっと前から。

昔三人で遊んでいたあの時から、俺は萌をずっと見てきた。




















...だから萌が春樹のことを昔から好きなことは、知っているさ。
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