もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
「本当……楽しそうに打つやつだな」
将太は教室に戻るとベランダに出てそれを眺める。
視線の先では快太とマッキーが声をあげながら楽しそうに白球を追いかけている。
太陽は少しずつ雲に隠れていく。
どんよりとした空気が迫ってきていても、決して曇らずに輝いている快太の笑顔。
「くっそー、またミスったぁ」
正面に飛んできたボールを見事に空振りした快太が笑顔でそう叫ぶ。
将太は馬鹿馬鹿しい。とそう思う反面で、純粋にテニスを楽しんでいる快太を羨ましくも思っていた。
『キーンコーンカーンコーン……』
昼休み終わりのチャイムが鳴る。
快太にマッキーと呼ばれた少年、牧野洋治(まきのようじ)が、ボールを拾った。
「マッキー、ラストラスト!!」
「やだよ次の授業音楽室だよ?早くしなきゃ。」
最後にもう一球打ちたいとごねる快太。
「うるせー。そんなこと言ってる時間あるならボールよこせ!!」
「……むっ。はいはい、ほら」
ふてくされて打ったマッキーの打球は、ネット際まで出てきていた快太の頭をゆうゆうと越していく。
「マッキー下手くそぉ!!」
快太は打ち出された瞬間に、後方へと後ろ向きのままダッシュしていた。
それを見ていた翔太の表情が変わる。
「なっ、あいつ今ラケットに当たった瞬間に動きだしていた!?それにステップも出来ていないくせに……速い」
コートの一番奥のベースライン上に落下したボールが跳ね上がる。
快太は後ろ向きのまま打球に追い付くと、構える。
「うぉぉぉぉおっ。快太超スペシャル、ハイパー必殺グラウンド……スマァァァアッシュ!!!!」
『スカッ。』
ポテポテと跳ねたボールが悲しいくらい静かに、グラウンド端のネットにかかって止まった。
『キーンコーンカーンコーン。』
快太、五時間目の音楽の授業に遅刻決定。
一足先に音楽室にたどり着いた翔太。
快太の空振りを思い出して笑う。
「ふっ、面白いやつがいるもんだな」
その後、一分遅刻した快太が音楽の先生に怒られる姿を見て翔太は声を出して笑うのだった。