もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
急ぎ足で部活見学を始めた翔太とアヤが最初に訪れたのは音楽室。
そこでは吹奏楽部がパート練習の前に個人練習に励んでいた。
音楽室のどこかしこからメロディーが溢れる。
「うちの吹奏楽部は市内じゃ結構有名なんだよ。
この学校は終業式の時に部活の校内表彰をするんだけど、この前も金賞もらってたんだ」
それぞれのパートがそれぞれに練習に励む。
一つ一つの音色がリズムが、身体を震わす。
「……あれぇ?」
翔太がある楽器の音色に聞き入っていた頃、アヤは誰かを探して辺りをキョロキョロと見渡していた。
「どうしたの?」
「うん、吹奏楽部に唯一の男子生徒がいるんだけど……どこにいるのかな?」
翔太も辺りを見渡すがそこに男子生徒は1人も居なかった。
「もしかして……それってティンパニの人?」
吹奏楽の根幹となるリズムを司る打楽器。
その良し悪しでバンド全体のバランスが決まってしまうくらい大事なパートである。
「え?うん、そうだけど。
……何で佐野くん知ってるの?」
翔太はゆっくりと音楽室を出て、廊下をツカツカと歩いていく。
そして、ある部屋の前で立ち止まり扉に手を掛けた。
「凄く力強くて、それでいて繊細な響き……男の子っぽいなって思って」
ゆっくり扉を開けると、軽快なリズムが波のように溢れだしては身体を撫でていく。
部屋の中では痩せた男子生徒がダイナミックに打楽器を叩いていた。
その男の子が翔太達に気付いて手を止める。
「あれ、アヤじゃん。何してんの?」
にっ。と人懐っこい笑顔を見せる男の子。
アヤは少しだけ驚いたような、ちょっと呆れた様な表情で言う。
「コースケ。あんたいつもこんな所で練習してたの?」
どうやらコースケと言う生徒とアヤは知り合いらしい。
「あ、ごめんね佐野くん。あれが吹奏楽部唯一の男子生徒、五十嵐幸助」
「佐野……。あぁ君が噂の転校生か。顧問の先生から素晴らしい歌声をしてるって聞いてるよ。よろしくな」
幸助はゆっくりと翔太に近寄ると握手を求めた。
「素晴らしい演奏だった。こちらこそよろしく」
翔太はその手をしっかりと握り返す。