もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
「で、何で幸助こんな所で練習してるの?」
アヤの質問にすぐには返答せずに幸助はゆっくりと椅子に戻り、窓から下を眺めた。
三階の窓から見下ろすそれに翔太も気付いて目を背ける。
「なんでって、ここが一番よくテニスコートが見れるから」
小さい声。寂しげにそう言った幸助。
その様子を見て、幸助の生い立ちも全てを知る幼馴染みであるアヤは苦しそうに笑った。
「そっか……幸助はテニスがやりたかったんだもんね」
アヤの声も小さく部屋に吸い込まれる。
しかし、幸助は振り向くとまたあの笑顔を見せる。
「ま、手とか怪我するわけにいかないし。
こいつ叩いてる時は同じくらい楽しいから良いんだけどね」
翔太は何故だか分からないけれど、幸助の言う言葉の"同じくらい楽しい"というその意味に気づいた。
だからこそ、早くこの場を立ち去らなければならないと思ったのだ。
「練習の邪魔しちゃって悪かったね。ありがとう」
そう言って翔太はその部屋を出ていく。
「えっ、あ……佐野くん!?」
急に出ていく翔太にアヤも慌ててついていく。
幸助は振り返りもしない翔太に向かって手を振って、見送った。
外からは外周を走りながら騒いでいる快太の声がかすかに聞こえていた。