もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
それから囲碁・将棋研究会を覗いた。
そこには学級長の益子の姿があったがどれだけ翔太が笑いかけても益子は反応すらしなかった。
校舎を抜けて、二人は体育館へ向かう。
複数の部活が日割りでコートを使う体育館ではその日はバレー部とバドミントン部が活動をしていた。
同じクラスの今泉が、隅で見学している翔太に気づき駆け寄る。
「佐野くん、バドミントンに興味あるの?だったら見学じゃなくてちょこっとやってみない?」
わざわざ2人分のラケットを持ってきていた今泉が翔太に片方のラケットを手渡す。
明らかに翔太と打ちたいからという動機が丸見えで、それを見ていた男子生徒は良く思っていなかった様だ。
「なぁ、どうせならコートで打たない?」
今泉を押し退けて、バドミントン部副キャプテンの佐伯がそう言った。
女子からちやほやされる男子は嫌いと書かれた顔、明らかに目がマジである。
「そう?じゃあお言葉に甘えようかな」
佐伯の心境を知ってか知らないでか、翔太は簡単にその誘いを承諾した。
にこやかにコートに入った翔太であったが、表情が一変する。
簡単なラリーと思って、打ちやすくトスを上げたシャトルを佐伯が思い切り打ち込んだのだ。
故意か偶然かは分からないがシャトルは真っすぐに翔太の顔に向かっていく。
「危ない!!」
佐伯は市内の新人戦で準優勝したこともある実力者だ。
バドミントンの羽はラケット競技の中でも最速の初速を誇る。
バドミントン初心者であれば、本来ならば反応することもできないであろうスマッシュ。
誰もが目をつむろうとした時、翔太はシャトルのスピードに合わせて、ラケットヘッドを柔らかく引いていなしながら前に軽く落とした。
「……なっ。」
だれもが言葉を失う。それほどのプレーだった。
「すごぉい。佐野くん格好良い」
はやしたてる今泉を佐伯が一睨み。
「ま、まぐれに決まってるだろあんなの。本気出したらこんなやつ……」
佐伯が威嚇する様にラケットヘッドを翔太に向けた。
スポーツマンにあるまじき態度に、見ていた女生徒たちからさんざんな言葉がもれた。
しかし今さら引くわけにもいかない佐伯はどんどん頭に血が昇っていっている。
そんな時、皆を静めるように手を叩く音が、体育館の入り口の方から聞こえてきた。