もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
「にしても佐野くん凄いね……昨日の体育でも凄いと思ってたけど。」
吉川が上靴に履き替えながら翔太に言う。
翔太は返事も返さずに、靴を履き替えた。
「まずは野球部かな?」
「ああ、そうだね。そうしよう」
グランドでは野球部がシートノックをしていた。
外部顧問である野田の厳しい打球が飛ぶ。
打球音と共に守備の陣形が連携を取って変化する。
「どこもそうだけど、野球部って強豪、弱小に関わらず本気で練習してるよね」
「うん、すごい迫力だね」
見事にライナーをキャッチしたセンターだったが、グラブさばきで野田の激が飛ぶ。
一通り言葉を聞き、センターの男の子が帽子を取りながら「はい、ありがとうございます!」と校庭中に響く声で叫んだ。
「…………」
翔太は片隅で見るだけで、背を向ける。
アヤには翔太の表情の意味が分からなかった。
羨ましそうで、誇らしげで、それでいて何処か悲しみにも似た……そんな表情だったのだ。
「うちはサッカー部がないから、後はテニス部だけだね。
…………見る?」
遠慮がちに聞くアヤ。
翔太は絶対にそこには足を運ばないつもりだった。
そしてそのことにアヤは何となくだけれど感づいていた。
しかし
「……うん、少しだけ」
快太の顔が浮かんで、その考えが変わった。
アヤは安心した様な表情で言う。
「うん、ちょっとだけ見に行こうか!」