もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
翔太がテニスコートを後にしようとした時。
「ストップ。ストーーップ!!」
背後から耳をつんざくような大声で呼び止める声がした。
振り向く翔太とアヤ。
そこには、にかっと白い歯を見せながら笑う快太の姿があった。
「快太……」
先に気付いたのはアヤで、それに続くように翔太が反応した。
翔太が立ち止まる。
「佐野くんじゃん。見てたんなら打っていきなよ。
ってかオレ乱打相手居ないんだ、打とうぜ」
下手くそな誘いに何処か翔太が喜びを覚えたのは、飾り気のない快太の言葉だったからだろう。
「ありがとう。でもテニス部には入るつもりはないから、良いんだ」
中学生にしてここまで作り笑顔の上手い子もなかなかいないだろう。
少なくともアヤにはそれが作り笑顔とは思えなかった。
「ん、そうなん?
1週間ずーっと、俺達が練習してるの見てたから入りたいのかと思ってたよ」
「――はっ!!」
1週間ずっと見ていた、それは間違いない。
しかし、快太がこちらを見ていたことなど翔太は気付いていなかった。
翔太が驚いた表情でいると、快太は不思議そうに笑った。
それを見て翔太は小さく呟いた。
「……自覚が無いところまでトオルと同じか」