もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
それから幸助にスティックを渡されて、簡単なリズム打ちの練習を始めた。
そして二時間が経過した頃。
「……ふーん。幸助はもう高校決まってるんだ。」
「あぁ、関東じゃ有名な音楽専攻科のある高校から、声かけてもらったからさ。」
スティックを両手に、リズム譜を見ながら厚めのノートを叩く翔太。
たったの二時間で会話しながらでもリズム打ちが出来る様になったみたいだ。
「それで手を怪我するわけにいかないからスポーツは極力禁止……かぁ。」
タタタ。と軽快な音が急に途切れる。
ふと幸助が手を止めると翔太が自分の方をまじまじと見ていた。
「打ちたい?」
真っすぐな瞳。
思わず見惚れてしまいそうになるほどに澄み切った。
「そうだなー。一回でいいから一日中死ぬほどテニスしたいな。」
顔をくしゃっとさせて幸助が豪快に笑った。
それを聞いた翔太の顔が予想外に曇るのを見た。
「……翔太も、そうだろ?」
「…………。」
簡潔で真っ直ぐな言葉。
これ以上の言葉など要らず、これ以上に相応しい言葉のない、そんな質問だった。
「…………オレはも」
翔太が何かを言おうとした時。
教室のドアが凄い音をたてながら開いた。
「……ここにいたのね。」
はぁはぁ。と息を切らしながら入ってきた吉川。