もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~

「佐野くん……何してるの?」

吉川はすごい剣幕で翔太を見つめる。

翔太はいつも通りにこやかに返す。

「吹奏楽部に入ったんだよ。幸助にリズム打ち習ったんだよ。」

吉川はキッと幸助を睨む。

「何で?テニス部に入るんじゃなかったの?」

じっと見つめる吉川に、翔太が低い声で言う。

「何が勘違いさせてしまったのか分からないけど、僕は一度もテニス部に入るなんて言ってないよ?」

「何それ――?」

「お、おいアヤ?」

幸助の無言の制止にも吉川は止まらなかった。

「快太は待ってる。」

「――えっ!?」

吉川は後ろを向くと腕で顔を拭った。

そしてそのまま出入り口へと向かう。

「佐野くんが手を振り返したから、快太は佐野くんと打てるのを待ってるんだよ……」

ピシャッ。とドアが閉められる。

吉川は走っていってしまったのだろう、すぐに足音が聞こえなくなった。

幸助が翔太の顔を見るが、沈みかけの夕陽に照らされた顔は表情が見て取れなかった。

「すまん、悪気は無いんだけどああいうやつなんだ。」

「……うん。分かってるよ。」

その後すぐに初日の部活が終了した。

帰りぎわテニスコートを見ると快太が1人でコート整備をしていた。

翔太に気付いた快太が笑顔で手を振った。

翔太はそれに気付かないふりをした。







< 27 / 58 >

この作品をシェア

pagetop