もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
「佐野くん……何してるの?」
吉川はすごい剣幕で翔太を見つめる。
翔太はいつも通りにこやかに返す。
「吹奏楽部に入ったんだよ。幸助にリズム打ち習ったんだよ。」
吉川はキッと幸助を睨む。
「何で?テニス部に入るんじゃなかったの?」
じっと見つめる吉川に、翔太が低い声で言う。
「何が勘違いさせてしまったのか分からないけど、僕は一度もテニス部に入るなんて言ってないよ?」
「何それ――?」
「お、おいアヤ?」
幸助の無言の制止にも吉川は止まらなかった。
「快太は待ってる。」
「――えっ!?」
吉川は後ろを向くと腕で顔を拭った。
そしてそのまま出入り口へと向かう。
「佐野くんが手を振り返したから、快太は佐野くんと打てるのを待ってるんだよ……」
ピシャッ。とドアが閉められる。
吉川は走っていってしまったのだろう、すぐに足音が聞こえなくなった。
幸助が翔太の顔を見るが、沈みかけの夕陽に照らされた顔は表情が見て取れなかった。
「すまん、悪気は無いんだけどああいうやつなんだ。」
「……うん。分かってるよ。」
その後すぐに初日の部活が終了した。
帰りぎわテニスコートを見ると快太が1人でコート整備をしていた。
翔太に気付いた快太が笑顔で手を振った。
翔太はそれに気付かないふりをした。